FumioBlog(ビジネス/読書)

ビジネスやプログラミング等の学んだことのアウトプットを目的に記事にしています

所感_Youtuberの炎上に思うこと(その1)

はじめに

 暇な時間にYoutubeを見ています。所謂Youtuberといわれる方々も興味で見ています。

 その中で炎上といわれる視聴者からの批判、非難に関して思うことをかきます。

道義・倫理に反している

 いわゆるドッキリ系の動画がこれに当たる場合があります。ターゲットとなる方を隠し撮りしておき、嘘の情報を伝えたり普段と異なる状況に陥れることによりそのターゲットの反応をみる趣旨です。その情報や状況によるターゲットの反応を楽しむ、素の性格を知ることができる点が人気であると思います。

 このドッキリにおいては情報や陥れる状況が道義的・倫理に反している程、低評価が多いように感じます。

彼氏持ちの丸の内OLレイナと週刊誌に… - YouTube

 例えばこちらの動画がそれに当たります。筋肉系Youtuberであり憎めない性格のぷろたん氏の彼女丸の内OLレイナ氏と浮気をするというドッキリの内容になっています。

 浮気相手役である格闘家の皇治氏及びレイナ氏はさもお互い好きでいる旨の発言や行動をしている内容となっています。視聴者からは、ぷろたん氏を憂う声や楽しめる動画ではないコメントが寄せられています。

 2021年1月時点でのYoutubeは元々Youtubeを拠点として活動しているYoutuberだけでなく、芸能人や文化人、スポーツ選手なども多くチャンネルを開設・発信しており数年前と比較して再生回数を稼ぎにくくなっているといわれています。

 その中で再生回数を稼ぐためにはより視聴者の興味を惹く内容を発信しなければならに事情があるのだと理解します。従って、Youtube上で恋愛関係にある2人をコンテンツとして発信していることから、その1つのトピックとして浮気することをドッキリとして発信することにしたのでしょう。また、炎上商法として名を上げるために実施した面もあるかもしれません。

 さらに、彼氏であるぷろたん氏が誠実で魅力的な人柄であることも要因にあると思います。ドッキリとはいえ、その彼を傷つける内容であることが視聴者からの低評価に繋がっていると想像します。

 道義や倫理に反することを行うことに対して非難したくなる気持ちは、その人気者を好きでいる自分が裏切られたと思う面があるからだと思います。

 見ず知らずの他人が同じようなことをしても気になりませんが、いつもデバイス越しに見ている人は知人に近い存在です。その人が行ったことや陥れられた状況は視聴者も同じ気持ちになります。

 だからこそ、根強いファンを生むことができるものの、逆に強く非難される可能性もあることを示しているメディアだと思います。台本や構成へのコストが高いテレビと異なり、より素に近い自分を見せることができるYoutubeならではの特徴だと感じました。

   

要約・気づき_日本企業のサプライチェーン戦略を再構築する(BCG内田氏記事)

はじめに

 ハーバードビジネスレビュー2020年12月号の記事である「日本企業のサプライチェーン戦略を再構築する」についての要約と気づきです。

www.dhbr.net

要約

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所感

企業ガバナンスとデジタル化

 グローバル企業では個人の職務範囲が厳格に規定されています。これは、手を抜かれてしまうことがあるからです。ガバナンスを効かせる上でデータをなるべく取得し、事実に基づいた管理をするという発想が根付いているとのことです。

 一方、日本企業は自発的に対処してくれるという前提でマネジメントするケースが多いようで、性善説に立ちすぎていてガバナンスが甘くなりやすいといわれています。

 この点の発想は新鮮でした。職務範囲を厳格に決めるうえでデータを多く集めることはKPIを明確に設定できることにもつながります。トップダウンの色合いを強くするうえでは有効な手段だと感じました。

縦割り組織の弊害

 サプライチェーンのどこかで問題が起きれば必ず重大な支障が出る一方、その改善が必ずしも担当部門の利益に直結するとは限りません。

 例えば生産部門が販売部門からリードタイムを短くしたいという要望を受けた場合、製造コストを上げることで達成できたとします。その製造コストアップよりもリードタイムが短いことで販売価格のアップや販売量拡大による利益が多い場合は進めて良いと判断できます。これは、全体が分かる経営レベルが判断しなければなりません。

 この時、現場力が強い日本企業の場合は各部門間が強いためサプライチェーンの変革を目指す取り組みが理解されることが難しくなります。  また、事業部ごとに独立した損益計算書を持つ場合はこの問題はさらに複雑化します。事業の垣根を越えて共通の倉庫を設けるとコスト効率が上がる一方、特定の事業部のコスト増を強いられる等短期的な損益勘定が優先されるため全体最適の意思決定が下されません。

   冨山和彦氏やアビームコンサルティングの安部慶喜氏が主張する内容と同じく、高度経済成長期に構築された日本企業の文化が弊害として表れていると主張しています。その文化を変えることがグローバル化とデジタル化が進む現代の企業に求められていることであることを改めて理解できました。

気づき:デジタルテクノロジーと国際政治の力学(著者:塩野誠)その2

はじめに

 経営共創基盤のマネージングディレクターである塩野誠さんの新著「デジタルテクノロジーと国際政治の力学」を読んで興味深かった点、気づきをまとめます。

デジタル通貨と国家の攻防

リブラ概要

   2019年6月18日にFacebookは暗号通貨「リブラ」構想を発表しました。このリブラの特徴は下記です。


・価格変動が起きにくい
・国境に関わらないグローバルな通貨及びインフラの構築を目指す
・世界中の人が金融サービスを受けられるようにすることを目指す

 価格変動が起きにくい理由として、リブラの発行団体は常に「発行されているリブラの層価格より多くのリザーブ資産を保有する」ことを明示しています。

 つまり、市場に出回っているリブラの数が多く、価値が低下してしまった場合はリザーブ資産によってリブラを買い戻して価格を適正に保ち、反対に価値が高まってしまった場合はリブラを発行して流通量を増やして市場をコントロールすると発表しています。

 Facebookは全世界で24億人の利用者がいるため、この構想は国家を目覚めさせ、デジタルテクノロジーによる国際金融の新たな世界を予見させるには十分でした。

 7月16日、リブラ事業の責任者のデイビット・マーカスは上院公聴会に召喚されました。その中で、個人のプライバシー問題やマネーロンダリングに利用される可能性があるなど、多くの重大な懸念が示されました。

 企業によるデジタル通貨は政府の主権を弱体化させるとし、フランスのブルーノ・ルメール経済財務大臣OECD会合の場で、「ヨーロッパの地でリブラ開発を許可することはできない」と声を上げました。

貨幣、通貨の起源(参考:サピエンス全史)

   貨幣は硬貨の鋳造が始まるはるか前から存在しており、様々な文化が貝殻、牛、皮、塩、穀物などほかの物を通貨として使用し栄えていました。

 現代の監獄や捕虜収容所でも、たばこがしばしば貨幣として使われています。

 貨幣は二つの普遍的原理に基づいています。


・普遍的転換性:貨幣は錬金術師のように土地を忠誠に、正義を健康に、暴力を知識に変換できる
・普遍的信頼性:貨幣は仲介者としてどんな事業・人どうしでも協力できるようにする

 この原理には邪悪な面があります。それは、あらゆるものが転換可能で、信頼が個性のない貨幣に依存しているときには、人間の価値が損なわれ需要と供給の冷酷な法則がそれに取って代わります。

 人類のコミュニティや家族は常に、名誉・栄誉、道徳性・愛といった値を付けられない貴重なモノへの信頼に基づいていました。それらは市場の埒外であるため、お金のために売買されるべきではありません。

 親は子供を奴隷として売ってはいけません。また、忠義な騎士は絶対に主君を裏切ってはいけません。貨幣はこうした障壁を突破しようとしてきました。

 

米ドルがいかに基軸通貨となったか

 基軸通貨には次の三要件が必要です。


1.その通貨の経済規模と金融市場の大きさ
2.規律ある金融機関、市場参加者、透明性
3.体制を維持可能な防衛・軍事力

 この要件を満たすことができる通貨が米国ドルです。

デジタル人民元

 2020年5月に中国はデジタル人民元を2022年2年の冬季オリンピックまでに発行する方針であるとの報道が出ました。世界二位の経済大国となった中国が、デジタル通貨というパラダイムシフトを好機と捉えてドル、ユーロ、円といった既存の通貨秩序に挑戦するのは自然といえます。

 デジタル人民元は中国ではDC/EP(Digital Currency/Electronic Payment)と呼ばれています。その特徴は、発行体が中央銀行であり完全な法定通貨となる点にあります。

 ユーザーは現金とデジタル人民元を交換し、DC/EPウォレットによってユーザー間で送金され、分散型台帳ではなく中央集権型台帳に取引が記録されます。

 使用した記録が台帳に残ることは、そこから個人情報が何らかの意図で使用・利用される恐れがあることを意味します。中国では社会信用システムの構想で、個人の信用に基づいて得られる公共サービスが変わるとされています。この動きにデジタル人民元も活用されるものと思われます。

 支払いの利用が便利になる一方で、個人の情報を握られてしまうため一概に良い面だけ取り上げてはいけないことが分かります。

まとめ

 従来の貨幣経済についてと暗号通貨の概要、デジタル人民元について理解しました。

 

企業戦略論第五章「企業の強みと弱み」要約:バーニー著

はじめに

   バーニー著の企業戦略論のうち、第五章「企業の強みと弱み」の前半部分についてまとめます。  

要約

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企業の強み・弱みに関する従来研究

 経営の外部環境に関する分析はSCP(構造、行動、パフォーマンス)モデルによって行うことができます。一方、企業自体の強みと弱みの分析はより多岐にわたる研究の潮流に基づいています。

企業固有能力に関する伝統的研究

 強み・弱みの研究において最初の流れは、企業固有能力に関する一連の研究です。大きく二つの流れがあり一つは経営者を能力する流れ、もう一つはその他の組織的属性を源泉とする考え方です。

企業固有能力の源泉としての経営者

 1911年に多くの研究者らによって組織における経営者の役割に関する分析にまでさかのぼることができます。この初期の研究では、経営者は企業のパフォーマンスに非常に大きなインパクトを持つと仮定されています。

 すなわち経営者は組織に合って自社の環境を分析し、強みと弱みを理解し、事業価値を最大化する戦略を選択できる存在であるということです。

 この考え方はある程度信頼性がありますが、次の二点で応用可能性には限界があります。

1.「質の高い」経営者が持つべき特質・属性が定義されていません。現実には、GEのCEOであったジャックウェルチ(当時)は、ハンズオフの経営スタイルであるといわれていました。一方、マイクロソフトのCEOであったビルゲイツは実務の細部にわたって深く関わっていました。

2.経営者だけが組織の強み・弱みの源泉ではありません。経営者を競争優位の源泉として強調しすぎると、企業のパフォーマンスを理解するために必要な他の要素を見落とすことになります。

企業成長の理論

 1959年エディス・ペンローズは著書「会社成長の理論」において、企業成長のプロセスと企業成長の制約条件の理解についてまとめました。    ペンローズが最も問題視した視点は、「企業というものが比較的単純な生産関数として適切にモデル化可能」という仮定でした。

 この抽象度が高い仮定はある程度有効な場合があります。しかし、ペンローズはこの仮定が役に立たないという結論に達しました。

 その代わり、企業が2つの意味において理解されるべきだと主張します。第一に、企業とは非常に多くの個人やグループによる行動をリンクさせたり調整したりする管理のフレームワークであること、第二に企業とは生産資源の集合体として理解しなければならない点です。

   

組織の強みと弱みの分析

   近年、企業の強み・弱みを分析するフレーム枠としてリソースベースドビューが提案されています。これは、企業ごとに異質で、複製に多額の費用がかかるリソースに着目します。

リソースベースドビューの基本的前提

 企業ごとの経営資源の異質性(≒生産資源が異なっている)と、固着性(≒経営資源の複製コストが非常に高価である前提で、企業の資源の強み・弱みを分析します。

 その経営資源の種類は大きく4つのカテゴリーに分類されます。


1.財務資本:資本金、出資金、債権、内部留保金等
2.物的資本:固定資産、原材料、技術等
3.人的資本
4.組織資本:企業内部の関係、組織構造等

バリューチェーン分析

 企業にとって競争競争優位を生じさせる可能性のある経営資源やケイパビリティを特定する方法にバリューチェーン分析があります。 このうち、ポーターらによって提案されたモデルについて考えます。

 主要活動と支援活動に分類して分析します。主要活動は購買、製造、販売・マーケティング等として、支援活動はインフラ、技術開発、人的資源の管理と開発です。

 これらの諸活動の一つ一つ、あるいは複数が連携して強みとなっているか分析することができます。

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企業の強みと弱みの分析フレームワーク:VRIO

 以上で分析した経営資源やケイパビリティが強みか弱みなのかを分析するフレームワークにVRIOフレームワークがあります。


1.経済価値(Value)に関する問
2.希少性(Rarity)に関する問
3.模倣困難性(Inimitability)に関する問
4.組織(Organization)に関する問

これらの問に対する答えによって、経営資源やケイパビリティが強みなのか弱みなのか判断できます。

まとめ

 企業自体が持つ経営資源やケイパビリティをバリューチェーンにより洗い出し、VRIOフレームワークによって強み・弱みを洗い出すことを示してきました。

 漏れなくダブりなく洗い出すことで企業全体の強みを把握することで、自社・他社の比較や打ち手を考えることに使用するものだと理解しました。

感想、気づき:サピエンス全史(ユヴァル・ノア・ハラリ氏)その1

はじめに

 前から気になっていた本を読み始めました。印象的だった内容をまとめます。

 読んで心に響いた点、気付きについてまとめます。上下巻に分かれており、サピエンス(ヒト)が現れた過去から主に現代にかけて農耕、狩猟や宗教、科学技術に着目して書かれています。

文明は人間を幸福にしたのか

 過去500年間で地球は生態的にも歴史的にも単一の領域に統合されました。科学と産業革命のおかげで、人間は超人間的な力と実質的に無限のエネルギーを手に入れました。

 しかし、私たちは以前より幸せになったのでしょうか。

 資本主義者は、経済成長と物質的豊かさを実現し、人々に自立と進取の精神を教え諭すことにより、自由市場だけが最大多数の最大幸福をもたらすことができると主張します。

 

幸福度を測る

 幸福とは主観的厚生とされます。この見方によると、自分自身が心の中で感じるものを意味します。

 「今の自分に満足している」「人生を送ることには大きな価値がある」「将来について楽観的だ」等の記述に対して、どの程度賛同できるかを評価することを行います。

 この質問の結果、以下が判明しました。


・富と主観的厚生には正の相関がある(ただし一定の水準まで)
・病気は短期的に幸福度を下げるが、長期的な下落は継続的な病気の場合
・家族やコミュニティは富や健康よりも幸福感に大きな影響を及ぼす

さらに、重要な発見として「幸福は客観的条件と主観的な期待との相関関係」によって決まることが見出されました。

このうち主観的な期待とは、例えば新車が欲しかった場合に中古車同然の車が来た場合に抱く気持ちの差のことをいいます。また、一泊一万円のホテルに泊まった際に、受けたサービスが思いのほか良くて満足した場合の差をいいます。    この考えは非常に納得感があり、私自身も実感するところです。「日本人として、大学卒業した人間として、30代として、子供のいる父として、人生はこうしてすごしたい」と思う姿とのギャップがあるほど幸せな気持ちで無くなる気がしています。

 また、周りの裕福な人間をみると自分自身との差を考えて悩んでしまうこともあります。すると、自己肯定感が失われることにもつながっていきます。

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終わりに

 幸福感を日々得ることで、充実した人生を送ったと振り返ることができます。その中で、主観的な期待は意識していなかった観点でした。

 ニュースやYouTube等で知らず知らずのうちに良い環境で生きている人がいることを知り、こうなりたいと思う気持ちがあふれてしまいがちです。

 なんとなく幸福感が無いな、と思ったときはむしろ情報を遮断して自分の客観的条件に注目することが良いのかもしれません。

 

気づき:DXの神髄(著者:安部慶喜氏、柳剛洋氏)

はじめに

 アビームコンサルティング社より出版されたDXの神髄(著者:安部慶喜氏、柳剛洋氏)を読んだ気づきです。

要約

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気づき

 本著はDX(デジタルトランスフォーメーション)を日本企業で推進する上での障壁となる企業文化を挙げており、その後DX成功実例を紹介しています。    障壁となる企業文化とは、高度経済成長期に発展することができた特徴から由来するものであり、現在は逆に足かせとなっていることを示しています。

 年功序列で同質的な人材をベースにしてすり合わせの力によって、ボトムアップカイゼン活動をしてきたスタイルが従来の日本企業です。一方で、昨今はデジタル技術やグローバル化の影響によりビジネスモデル自体が大きく変革してきているため、持続的な利益を上げるためには組織自体が変革できる体質があることが望まれます。

 これはIGPIの冨山氏が指摘するCX(コーポレートトランスフォーメーション)でも指摘されています。

 企業変革し続ける文化やガバナンスをするための一手段としてDXを捉えている点を本著や冨山氏は繰り返し述べられています。

本著でも、現状課題の日本企業が持つ習慣病についてはDX以前に組織、ガバナンスとして今後の日本企業でのあるべき姿を描いている点が印象的でした。

組織間の壁を生むピラミッド構造

 組織・人の習慣病の一つに、組織間のピラミッド構造があります。これは、得られるスキルや業務範囲を限定することによりカイゼン的な力を付けるうえでは有用な方法でした。

 しかしながら、大きな変革が要請されつつある現代においては組織をフラット化し、様々な能力や経験を持った人材が部門を超えて課題解決に取り組むことが望まれます。

 所謂プロジェクト単位でチームを編成させることでより柔軟な対応ができることになります。

 

トップダウンによる号令が必要

 企業文化やガバナンスを変えなければならないと述べられています。従って、経営層によるリードが絶対に欠かせません。

 戦うべき相手は社内の習慣病であるからです。経営層がゴールを示して、強く動機づけることが必要不可欠となります。

 この社内の大きな変革を実行できないでいると、大規模なリストラや事業撤退へ追い込まれていくのだと思います。いつ痛みを感じて断行するか、これが経営層に問われていることだと理解しました。

まとめ

 高度経済成長期に発展した日本企業の特徴が現代のDXにとって足かせとなっていることは、繰り返しほかの著書でも語られていることであったため、改めて難しい課題だと認識しました。

 

 

気づき:デジタルテクノロジーと国際政治の力学(著者:塩野誠)その1

はじめに

 経営共創基盤のマネージングディレクターである塩野誠さんの新著「デジタルテクノロジーと国際政治の力学」を読んで興味深かった点、気づきをまとめます。

イノベーションの創出と国の関わり

 1958年アメリカは旧ソ連との冷戦時代、アイゼンハワー政権下に高等研究計画局(APRA)が設立されました。後に、ARPAの頭にD(Defense)が付き、DARPAと呼称されるようになりました。

 冷戦から生まれた軍事科学技術研究機関であるDARPAはインターネットの前身であるARPANETのコンセプトの多くを開発し、インターネットの生みの親といわれています。    また、GPS、ステルス技術、音声認識技術、翻訳技術等が研究されており現在のデジタル技術の基礎を作った機関でもあります。

DARPAによるイノベーション創出

 DARPAではプログラムが約250程度あり、プログラムを監督する責任と大きな権限を持つプログラムマネジャー(PM)が100人近く在籍しています。

 PMの大半は一流の科学者であり、3~5年の限定雇用となっています。政府の予算としては約3400億円計上されています。つまり、一プロジェクトあたり単純に年間約14億円の予算となっていることになります。

 DARPAはその高い自由度の中で、異なる領域の研究者の知見を探索し、統合していくことが許され、かつそれを求められています。現在のソフトウェアのスタートアップ企業に近い形態となっています。  

(経済産業省資料より抜粋) f:id:fumio-eisan:20201016163831p:plain

 また、DARPAの組織構造は階層が少ないため意思決定が素早く行うことができるようになっています。

 日本で置き換えると、防衛装備庁と呼ばれる機関があるようです。また、理化学研究所産総研等の機関についても併せてまとめました。


(各所Webサイトより抜粋)
・防衛装備庁:1597億円(2020年度予算)
理化学研究所:976億円(2020年度予算)
産業技術総合研究所経済産業省所管):1019億円(2019年度決算額)
国立情報学研究所:128億円(2020年度)
情報通信研究機構:491億円(2019年予算計画)

 GDPアメリカが20.5兆ドル、日本が5.0兆ドルであることを加味してGDPで按分すると日本の方がGDP辺りの研究開発はお金をかけている計算になります。しかしながら研究職は日本の防衛装備庁は500名程度とされているため、一人当たりの予算はアメリカよりも少ない計算となります。

デジタルテクノロジーによる国家への脅威

アラブの春

 2010年、失業中のチュニジア人の青年が、腐敗した警察に対して自らの身体を犠牲にして抗議しました。

 この事件を発端として、チュニジアは2011年には23年続いたベンアリ大統領の政権が倒れました。これに続き、エジプトでの大統領退陣、リビア政権交代といった民衆による反政府運動は「アラブの春」として注目されました。

 体制に不満を持つ民衆にとって何よりも大きなパワーとなったのが、FacebookYoutubeTwitterなどのソーシャルメディアです。

 インターネットによって個人が世界に向かって声を上げ、多くの仲間と繋がり、正しく開かれた情報にアクセスできるようになりました。

中国の社会信用システム

 2017年時点で中国には1億7600万台の監視カメラが設置されているとのことです。監視カメラの一部は、「天網」と呼ばれるネットワークとリンクしており、AIによる顔認証と人物の捕捉が行われています。

 また、構築中のシステムとして社会信用システムがあります。これは、国民と企業の経済、社会、道徳、政治的行動を監視、評価、規制する目的で構築されています。

 国民の行動に報酬と処罰によるインセンティブ設計がなされており、高スコアの人間には学校への優先入学、公共交通機関や病院での優先、ローンへの優先的なアクセスが可能になっています。

 スコアが加算されるためには、ソーシャルメディアでの政府を称えることや貧しい人を助けること等が必要だそうです。

 社会的に反する行為を抑制するために一定の効果があるように思いますが、政府に対して賛同することでスコアを上げる等民主主義と異なる考えで日本にとっては非常に受け入れにくい考えです。

 

まとめ

 デジタルテクノロジーアラブの春の例のように時に国を動かす力となりますが、一方で中国のような管理社会を作ることも可能です。

 私もデジタル技術によって業務改善等を行えないか企画をする立場でもあるので、より多方面から見たリスク・メリットを総合的に勘案することで進める必要があると感じました。