気づき:世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか(著者:塩野誠氏)
はじめに
経営共創基盤のマネージングディレクターである塩野誠さんの著書「世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか」を読んだ気づきについてまとめます。
- 作者:塩野 誠
- 発売日: 2015/03/21
- メディア: 単行本
興味深かった点
本著は「日本のGDPと雇用の3割のグローバルな競争をしているビジネスにおいて、そのまた数パーセント程度のトップクラスの高度知識人材として仕事をしたい人」と対象読者を絞った方に向けられていることが特徴的です。
名刺交換や会議での席次などの所作から事業の分析、財務諸表やファイナンス等の基礎的な知識含めて所謂トップクラスの高度知識人材が持つべきハードスキル面を網羅している印象です。
今回、小職が気になった点、新しい気付きについて簡単にまとめます。
第1部:心構え編
(出展)グローバルノート
・2019年GDP 1位米国21.4兆ドル、2位中国14.7兆ドル、3位日本5.1兆ドル、4位ドイツ3.9兆ドル、5位インド2.9兆ドル
・2019年世界に占める日本のGDP割合5.8%(=5.1兆ドル/87.5兆ドル)
・笑顔は万国共通の護身術
・建機メーカーのコマツでは、建機にGPSや通信システムを装備して車両の状態をモニタリングできるサービスがある。これはたまごっちから得た着想とのこと(たまごっちはお腹がすいたらアラームが鳴る)。
第2部:実践編
・本は最高の投資対象:戦略を学ぶにあたって、歴史はアナロジーの宝庫
・株主という主体と経営者という代理人の間での利害調整をするための設計がコーポレートガバナンス
・ファイナンスは設計するもの
まとめ
大部分は認知している内容が多かったものの、網羅的に記述されているため頭の整理に繋がりました。
本を読む習慣、歴史から学ぶ姿勢はここ1~2年で日々の業務でも活かせる(新技術の応用や、人間関係の構築など)ことを実感しているので継続して進めようと再認識しました。
ファイナンスに関しては、主に株主と経営者の関係について日本、諸外国の違いやあるべき関係についてより理解を深めるべきだと認識しました。これは、資金調達の考え方から株主との関係が決まると理解していますが、近年ではサステナブル経営の視点もより重要視されているので時代ごとにあるべき関係は変わるものと思っています。
全般的に塩野さんの文章は切れ味が鋭いので癖になっています。最新著作のデジタルテクノロジーと国際政治の力学も読み進めます。
企業戦略論第八章「製品差別化」要約:バーニー著 (前半部分)
はじめに
バーニー著の企業戦略論のうち、第八章「製品差別化」の前半部分についてまとめます。
製品差別化の定義
製品差別化とは、市場が認知する他社の製品・サービスの価値に対して、自社の製品・サービスの認知上の価値を増大させることにより、企業が競争優位を獲得しようとする事業戦略です。
企業は製品差別化戦略を実施することで自社の製品やサービスの客観的属性を変えます。しかし、最終的には常に顧客の認知の問題です。
異なる2つの企業が非常によく似た製品を販売することがあっても、もし顧客が最初の企業の製品の方が第2の企業の製品よりも価値があると信じていれば、第1の企業の製品が差別化による優位性を持つことになります。
製品差別化の源泉
非常に多くの研究者が、過去の知見を基に差別化の源泉となる要素をまとめています。
1.製品の特長 2.機能間のリンケージ 3.タイミング 4.地理的ロケーション 5.製品の品揃え 6.他企業とのリンク 7.評判
製品の特長
製品差別化は常に顧客の認知の問題ですが、企業が自社製品に対する消費者の認知に影響を与えるために採る最も当然の方法は、まずその製品やサービスをの客観的属性を変更することです。
多くの業界において、企業は自社の製品を差別化するためにその性能や仕様を変更します。例えばボーズやヤマハは、音質にこだわることによって自社のステレオ装置を差別化しようとしていますし、ソニーは差別化のベーストして製品の物理的サイズにこだわっています。
機能間のリンゲージ
企業内における複数の機能間の連携があります。例えば、メインフレームコンピューターを販売するために、IBMは販売・サービス・ITコンサルティングの各機能部門を連携させてきました。
顧客はIBMとの「関係」を買うのです。つまりその関係とは、高度なサービス、技術サポート、そして自社のビジネスをコンピューターによって変革する様々な方法を提示してくれるサービスです。
他企業とのリンク
差別化の源泉が、社内機能の連携でも、複数の自社商品の組み合わせでもなく、自社の製品と他社の製品やサービスをリンクさせるところにある。
製品差別化の源泉に関する実証研究
これまでは製品差別化の源泉となる可能性があるものを追求しました。次に、具体的に実証研究の手法で差別化した根拠を明らかにする手法をまとめます。
・多次元スケーリング
・製品価格決定要因の相関分析
この2つの統計的手法と相関分析を用いてアメリカとオーストラリアで発売される耐久家電製品に関する製品差別化の源泉を調べた研究があります。 その結果、以下の5つの次元で差別化されていることが明らかとなりました。
1.特定顧客に合わせてカスタマイズした製品
2.製品の複雑性
3.消費者マーケティングへの傾注
4.異なる流通チャネル
5.アフターサービスとサポート
製品カスタマイズの程度
特定顧客の用途に合わせてどの程度カスタマイズされているかによって、製品は差別化されます。
製品の複雑性
製品はその複雑性によっても差別化されます。例えば、BICとクロスのボールペンを比べます。両方のペンは筆記性能そのものが差別化されていません。しかし、BICのボールペンは7つの部品から成り立っているものの、クロスのペンは数十の部品から成り立っています。 →どちらが製造コストが安いかは一概に言えません。少ない部品の方が組み立てリードタイムは少ないものの、部品加工コストが高い可能性もあります。
消費者マーケティング
消費者向けのマーケティングにどの程度注力しているかも製品差別化の源泉です。ラーバやソフトソープといった手洗い石鹸は、テレビCMやクーポン券などで大量の消費者マーケティングが行われています。 一方、業務用の液体石鹸や粉末石鹸は、ほとんど消費者マーケティングによる支援が行われていません。洗浄能力そのものは同等であるため、洗浄能力そのものは製品差別化の源泉にはなりません。
まとめ
製品差別化をする上での要因の分析をまとめました。
企業戦略論第四章「機会の分析」要約:バーニー著 (後半部分)
はじめに
バーニー著の企業戦略論のうち、第四章「機会の分析」の後半部分についてまとめます。
ネットワーク型業界での機会
著者らは、製品やサービスの価値が少なくとも部分的に、それらの製品やサービスの販売量そのものによって影響を受ける場合、そのような業界をネットワーク型業界と呼ぶこととしました。
例えば、電話機はそれを所有する人数が少数の場合価値がある製品と言い難い状態です。しかし、莫大な人数が電話機を所有した場合は、コミュニケーションツールとして価値が劇的に上昇します。従って、電話機を所有する人数が増えるにつれて価値が増大する関係が生まれています。このような業界を収穫逓増の業界と呼びます。
ネットワーク型業界では、先行行動はその業界の製品やサービスをデファクトスタンダードにすることによって経済価値を創出します。この業界では、いったんある企業の製品やサービスがスタンダードになると、事実上その製品やサービスが市場シェアの全てを占める可能性があります。
家庭用ビデオプレーヤー規格の例
家庭用ビデオプレーヤーの市場では、ネットワークの力学が非常に重要でした。価値は、再生できる映画のビデオテープがどれだけ豊富かで決まります。次に、そのプレーヤーで再生できる映画ビデオの豊富さは、その規格のプレーヤーがどれだけ売れているかで決まります。
初期はソニーのベータと、松下電器のVHSが競合していました。ソニーのベータの方が技術的に優れているといわれていました。しかし、ソニーはベータ技術を高いライセンス料を払わない限り他社へ供与しようとしませんでした。一方、松下電器はVHSを比較的安価なライセンス料で供与し、大多数のメーカーがVHSを売り始めました。従って、VHSの普及台数増加するにつれて、その価値が増大しました。そしてとうとうVHSがデファクトスタンダードとなりました。
超競争業界における機会
競争状況の展開が不安定で予測困難な業界を超競争業界と呼びます。超競争業界では、企業は自社の競争する基本条件が安定しており、常に変化の予測が可能だと前提を置くことができません。
超競争的と考えられる業界の例としては、電子商取引とバイオテクノロジーがあります。これらの業界では、競争の基本条件が常に変化しているため、現時点でそれらを正確に理解することが難しいです。
この種の業界には2つの重要な戦略機会が存在します。
①柔軟性
②先制破壊
柔軟性
企業がある戦略から他の戦略へ、低いコストで切り替える能力を保持しているとき、その企業は柔軟性の機会を追及しているといえます。
先制破壊
先制破壊とは、自らその業界の競争プロセスを支配し、競争の基本条件を左右するような戦略を追求することです。こうすることにより企業は一時的に競争優位を獲得できます。
コアなし業界における機会
買い手・売り手の双方が最高の条件だと思える取引が永遠に成立しない場合があります。この種の市場のことをコアなし市場と呼びます。
コアなし業界の特徴を数多く備えているのは、規制緩和後のアメリカ航空業界です。1978年以前のアメリカ航空業界は、がっちりと規制された業界でした。1978年以降、ルート決定、運航頻度、そして価格決定プロセスはすべて市場原理に基づいて決められることになりました。
この厳しい競争の時期はそう長く続かないと思われていました。しかし、実際のところ10年以上の長きに渡り、事実上すべてのアメリカ航空会社は損失を出し続けました。
戦略グループによる脅威と機会の分析
戦略グループとは
戦略グループとは、同一業界内において他の企業とは異なるある共通の脅威と機会に直面している企業群のことです。単にある企業群が同じ脅威と機会を共有しているだけではなく、その企業群が直面する脅威や機会が、同じ業界の他社と異なっていなければいけません。
戦略グループ概念の適用
この概念は、脅威と機会の構造を分析するために多くの業界に対して用いられました。例えば、製薬業界における戦略グループ内部、そして戦略グループ間の競争がいかに進化したかという研究があります。
製薬業界内の移動障壁として大きく3つ挙げられました。研究開発スキル、マーケティング・スキル、そして製品ポジショニングスキルです。これらの移動障壁は全て、規模の経済、製品差別化、規模に無関係なコスト優位の組み合わせによって成立しています。
以上のような移動障壁が特定されると、次はこうした障壁をめぐる企業行動を観察・評価することが可能になります。ある企業は自社の研究開発能力を強化し、他の企業は前期の企業が保有する研究開発能力を外部調達する道を選択します。
戦略グループ分析の限界
戦略グループ分析は、業界の外部環境における脅威と機会の分析を補うツールとして重要な役割を果たします。しかしながら、この戦略グループ分析によって得られた定義は人為的カテゴリーにすぎません。この分析結果を解釈する際には、非常に慎重でなくてはなりません。
脅威と機会の分析におけるSCPモデルの限界
SCPモデルに則った脅威と機会のモデルが、戦略の選択を行おうとする企業にとってきわめて重要なツールであることは疑いありません。しかしこのモデルにもいくつか見逃してはならない重大な限界があります。
1.企業利益と業界参入に関する前提
2.非効率な企業戦略の役割
3.限定された企業異質性の前提
企業利益と業界参入に関する前提
企業レベルでは、既存企業の高いパフォーマンスが参入を促進するか抑止するかという問題は、企業がある業界に新規参入するかどうかを判断する際に非常に役立つ示唆を与えてくれます。
既存企業が寡占的・独占的行動故に高い利益を得ているとしたら、新規参入は魅力的な選択肢となるでしょう。一方、既存企業自身が保有する競争優位によるものである場合、その新規参入へのコストはよりかかるため、相対的に魅力が低くなるでしょう。
終わりに
ネットワーク型業界の特徴はデファクトスタンダードであることが他の業界に比べて高い価値であることが実例(マイクロソフト等)を通して理解できました。その理由として、スイッチングコストが高いことと収穫逓増の業界であることが挙げられます。
また、後半のSCPモデルの限界については、次章で扱うリソースベースドビューに繋がる話です。外部環境(SCPモデル)だけで分析することの困難さを見てきたため、次に内部環境(リソースベースドビュー)で分析することの重要性を確認していきます。
企業戦略論第四章「機会の分析」要約:バーニー著 (前半部分)
はじめに
バーニー著の企業戦略論のうち、第四章「機会の分析」についてまとめます。
要約
業界構造と機会
本章では、経営環境における「脅威」に変わって機会を分析するフレームワークを提示します。
SCPの理論では、外部環境に存在する機会を理解する一つの方法は、業界の構造とそれに付随する機会を検証することです。
マイケルポーターが提唱する区切りとして5つ、そしてさらに著者らは3つ提唱しています。
(1)市場分散型業界
(2)新興業界
(3)成熟業界
(4)衰退業界
(5)国際業界
(6)ネットワーク型業界
(7)超競争業界
(8)コアなし業界
市場分散型業界における機会
多数の小・中規模の企業が存在するものの、市場シェアの大部分や主要技術を占有するような企業がいない場合を指します。例えば、サービス業界、小売業界、繊維業界、商業用印刷業界の大部分はこの分類になります。 市場分散型の業界に存在する「機会」は多数の小・中規模の企業を少数の企業に集約する戦略を実施することです。この集約・統合戦略の実施に成功した企業は、その業界のリーダーとなることで何らかの利益を得る可能性があります。
例えば、アメリカでは市場分散度の高い葬儀業界において、サービスコーポレートチェーン(SCI)はバラバラの葬儀会社をチェーン化することで規模の優位が生まれることを見出しました。具体的には、棺桶などの原材料調達や、葬儀屋や霊きゅう車などの配分を見直すことにより、著しいコスト削減を達成しました。
SCIは事業内容について極端に目立たないようにしているようです。SCIが保有する斎場はSCIとの関係を明らかにしていません。これは、遺族が葬儀チェーンよりも家族経営の斎場を好むからだそうです。
新興業界における機会
新興業界とは、技術革新や市場需要の変動、または新しい顧客ニーズの出現により新たに生まれた業界、またはいったん消えたが復活した業界のことです。例えば、マイクロプロセッサ業界、パソコン業界、医療画像診断業界、バイオテクノロジー業界などはそのごく一部です。
新興業界の企業が活用できる様々な機会は、一般的に先行者優位と呼ばれるカテゴリーに属されます。これは3つの要素を源泉としています。
①技術的リーダーシップ
②戦略的に価値ある資源の先制確保
③顧客のスイッチングコストの確立
顧客のスイッチングコストの確立
新興業界の初期段階で意思決定を下す企業は、顧客のスイッチングコストを高めることができます。例えば、パソコン用アプリケーションソフト、処方箋医薬品、日曜食料品雑貨など、様々な業界で重要な役割を果たしています。
パソコン用アプリケーションソフトの業界では、ユーザーは特定のソフトウェアの使い方を習得するために多大な投資を行います。一旦特定のソフトの使い方を覚えてしまうと、たとえ現在のものより優れたソフトが発売されても、すぐに乗り換えることはほとんどありません。
有名な例としてはマイクロソフトのオフィスでしょう。近年グーグルによるG suiteが無料で使えるメリットがあることから広まっているようです。
成熟業界における機会
新製品や新技術の革新スピードが鈍化するにつれ、その業界は「成熟」のフェーズへと移行します。この成熟業界の特徴は、①業界の総需要の成長スピードが鈍化、②経験豊富なリピート顧客の存在、③生産能力増加スピードの鈍化、④新製品やサービスの導入頻度の鈍化、⑤外国製競合製品の増加、⑥業界の利益率の全体的低下等が挙げられます。
一般的に成熟業界における機会は、新興業界での新製品・新技術の開発からシフトし、一般に
①現行製品の改良
②サービス品質の向上
③プロセス革新による製造コストの削減と品質向上
に存在しています。
③プロセス革新
企業のプロセスとは、製品やサービスを設計・製造・販売するために企業が携わる様々な行動のことです。プロセス革新とは、これら現行のプロセスを改革・改良することです。 製品革新とプロセス革新、そして業界の成熟度との関係を検証しました(下記図)。
この分析によれば、業界発展の初期段階では企業が①技術的優位の確保、②戦略的経営資源の先制確保、③顧客のスイッチングコストの増大を目指すため、製品革新が非常に重要となります。
一方、時間の経過とともに①製造コストの削減、②製品品質の向上、③経営プロセスの合理化を実現するためのプロセス革新がより重要となってきます。
私が働いている業界(製造の一業態)も成熟業界といわれています。従って、このプロセスの改革を主に行うことが重要業務とされています。新商品開発は2番手とされていることからもまさに著者が指摘している状態になっています。
国際業界における機会
21世紀の企業活動の大前提は、企業間競争がさらに国際的になっていることです。一見して国内に閉じているか、国内のさらに特定の地域にフォーカスしているようなビジネスであっても、ここ数年急速に国際化が進んでいます。
競争の国際化は、競合の脅威、新規参入の脅威、大体の脅威を増大させるものの、新たな機会をもたらします。
国際化した業界における機会は大きく3つのカテゴリーに分類されます。
①マルチナショナル
②グローバル
③トランスナショナル
マルチナショナル戦略
マルチナショナル企業は、同時に複数国市場、または複数の地域市場に事業展開を行います。しかし、これらの各事業はそれぞれ独立しており、各市場のニーズにどのように応じるかについては自由裁量が与えられています。
例として、ネスレやGMなどがあります。ネスレの場合、同社の中で世界市場を対象に販売されているのはごくわずかです。むしろ、ネスレが事業展開する各国のマネジャーは、その国の消費者ニーズをつかみ、それを満たす製品をデザインし販売する責任を負っています。
マルチナショナル戦略には二つの利点があります。一つは、その国もしくは地域で変化する需要に迅速に対応できる点です。二つ目に、事業部や本社間の実務上のつながりはほとんどないものの、経営資源が特定の地域市場での脅威の無力化や機会の活用に必要な場合、その資源を迅速に再配置することができます。
例えば、マクドナルドがモスクワや他の東欧諸国でフランチャイズをオープンする際、その技術ノウハウや経営知識を全て活用することができた事例があります。
グローバル戦略
グローバル戦略は、生産、物流、その他の経営機能を全世界レベルで最適化させようとする戦略です。例えば、シンガポールの工場で製造コストが非常に低く品質が非常に高い場合はグローバル企業は自社の製造機能をシンガポールへ集約させようとします。
グローバル戦略におけるリスクは3つあります。1つは、全世界に散らばった経営機能を組み合わせる必要があるため、世界レベルでの調整機能が複雑になる可能性があることです。2つ目は、地理的に広く分散することで輸送費が非常に高くなる可能性があります。3つ目に、各地域特有のニーズや機会、脅威に対応する能力がある程度犠牲にされる点です。 すなわち、国や地域によって市場構造にばらつきが少ない場合、特に魅力的なアプローチとなります。
トランスナショナル戦略
トランスナショナル戦略とは、分散され、かつ相互に依存する経営資源やケイパビリティの統合ネットワークとされています。各国ごとに散らばる事業で得られたケイパビリティを企業全体に展開していく事業形態のことです。このことにより、グローバルな統合と規模の経済を実現できます。
終わりに
今回、ポーターらが指摘した5つの業界構造についてまとめました。
新しい業界が生まれて発展し、推定していく過程で新興業界→成熟業界→衰退業界と変化します。また、市場をローカルにとるかグローバルにとるかで市場分散型業界か国際業界か分かれます。
つまり一企業が属する業界は複数あることが分かります(例えば、トヨタ自動車の場合は成熟業界である自動車業界であるとともに、市場がグローバルである国際業界である等)。
分類ができた後は、各タイプにおいて発展させるための実例や逆に衰退した実例を学ぶことで自身の企業の取るべき戦略を練ることが重要となるのでしょう。
企業戦略論第三章「脅威の分析」要約:バーニー著 その2
はじめに
バーニー著の企業戦略論のうち、第三章「脅威の分析」の後半部分についてまとめます。
競合の脅威
ポーターによって指摘された第2の脅威は、互いに直接競合する企業間の競争の激しさについてです。自動車についてはかつてGMにとってのライバルはフォードやクライスラーと言われていました。現在(2003年当時)は、トヨタや日産、本田などがライバルへとその存在感を大きくしています。
競合は利益を低下させるため、既存企業にとっては脅威です。価格引き下げ、新製品導入、広告キャンペーン、そして迅速な競争行動や他社への対抗措置の事象は、その業界の競合度が高いことを示します。
競合度が高くなる可能性が高い業界の特徴は下記です。
1.競合企業が多数存在する
2.それぞれの競合企業が同規模で、市場への影響力も同程度である
3.業界の市場成長率が低い
4.製品差別化が難しい
5.生産能力の増強単位が大きい
競合企業が多数存在
その業界に存在する企業数が多く、各企業がほぼ同じサイズで、市場への総供給量に対してもほぼ同じ影響力しか持たない場合、競争は激しくなります。例えば、ラップトップパソコン市場はそんなケースでした。全世界で120社以上が同業界参入し、技術と生産方法が日々改良され、価格は年々15~20%低下しました。メーカーの粗利率は当初10~13%だったものが、3~4%に急落しました。
市場成長率が低い
市場の成長スピードが遅い場合、競合が激しくなる傾向があります。つまり、業界の成長率が遅いと、売上高を増加させるためには既存企業のシェアを奪わなければなりません。
ペプシとコークの間の「コーラ戦争」が1970年代半ばに本格化した理由は、ソフトドリンク市場の成長率が水平になった時期であったためです。
代替品の脅威
経営の外部環境における第3の脅威は代替品です。代替品やサービスは、自社とほぼ同じ顧客ニーズを異なる方法で満たします。GMの自家用車の代替品には、自転車、バス、電車、飛行機と様々あります。
著書が出版された2003年時点は、GAFAのプラットフォーマーが強く世の中に影響する前です(iMacやgoogleなどは既に世の中に広まっていましたが)。mp3プレーヤーや携帯電話の代替品としてのiPhoneや、中間業者の入らないECサイトの先駆者としてのAmazonが強力な代替品、サービスを提供する世の中となりました。
供給者の脅威
第4の脅威は供給者(サプライヤー)です。供給者は、供給価格を上げたり、供給物の品質を下げたりすることなどによって、供給先である既存企業のパフォーマンスに対する脅威となります。
脅威を非常に高くするような供給者の属性を下記に示します。
1.供給者の業界が少数の企業で支配
2.供給者の販売する製品がユニークか、あるいは高度に差別化
3.供給者が代替の脅威に晒されていない
4.供給者が前方向への垂直統合(自社側)をする恐れがある
5.供給者にとって自社が重要な顧客ではない
購入者の脅威
経営の外部環境における脅威の最後は、購入者(顧客)です。自社の立場から見て、供給者は自社のコストを増加させようとこうどうするものの、購入者は自社の収入を減少させようと行動します。
購入者の支配力が大きいほど、その業界の企業利益はより大きな脅威に晒されることになります。
購入者の脅威が存在する可能性を示唆する条件は下記です。
1.購入者が少数しかいない
2.購入者に販売される製品が差別化されておらず、標準品である
3.購入者に販売される製品価格が、購入者の最終製品に占める大きな割合になっている
4.購入者が高い経済的利益を得ていない
5.購入者が後方垂直統合をする恐れがある
5つの競争要因と業界平均のパフォーマンス
5つの競争要因モデルには、戦略の選択と実行を考慮する際に、3つの重要な意味があります。第一にこのモデルは経営の外部環境に存在する最も普遍的な「脅威の源泉」を示しています。第二に、このモデルは各業界における脅威を具体的に明らかにするために用いることができます。最後に、このモデルによって各業界の平均的なパフォーマンスがどのレベルのものかを予測することができます。
重要な点は、5つの競争要因モデルによって1つの業界を経済学上の完全競争の状態へシフトさせていく様々なプロセスが明らかになることです。
演習問題
問「5つの競争要因モデルによる、潜在的な脅威の一つは購入者です。購入者が脅威になり得る事実と、購入者を満足させなければならないことは互いに矛盾しないだろうか。」
解「矛盾しない。なぜならば、購入者を満足させるような製品の開発、提供を供給者が行うことが脅威となるリスクを減らすことに繋がると考えるからです。」
終わりに
2回に分けて脅威の分析についてまとめました。
まずは事業を行う業界の分析を行うことで、完全競争~独占の状態にあることを理解しました。その後、5つの競争要因モデルをそれぞれまとめました。
企業が高い利益を得るためには、独占の状態であることが望ましいものの、そこに参入するコストが非常に高いことも分かりました。
事業経営を進めるうえで、この脅威の分析が必要なことは言うまでもありません。特に重要なことは、日々新しい脅威が現れていないかや競争の状態が変わっていないかフォローしていくこととそれに対して自社が進めるべき戦略を考え続けなければならないことだと思いました。
「挫折力」冨山和彦氏を読んだ所感
はじめに
冨山和彦氏の著書:挫折力を読んだ所感をまとめます。
概要としては下記です。
・挫折こそが成長への近道
・ストレス耐性を高め、挫折と折り合う技
・人間関係の泥沼を楽しみ、糧にする技
挫折こそが成長への近道
日本(2011年当時)が閉塞し停滞してしまっている状況で、日本の社会や会社を変えていくのは、これまでの優等生型のリーダーではありません。そこに智略が備わっていることも必要ですが、むしろ根性が据わり、打たれ強く、腹をくくることのできる人間だといいます。
優等生型リーダーは「お勉強頭」がよく、一方で失敗を恐れます。成功しそうなことにしか挑戦しないから、ギリギリに追い詰められた時の緊張も知りません。簡単に手に入る成功体験を集めているかぎり、自分の人間の枠としては、実に小さいままです。
挑戦してきた人間ならば、可能性が広がり得られるものは多くなります。その過程で、挫折するのは当然で、挑戦者の特権のようなものです。
(所感) 非常にこの内容だけでも心に刺さる内容でした。私自身、どちらかというと所謂優等生タイプに属すると認識しています。人当たりが良くて、卒なくこなすことを是とする人間です。一方で、リスクを取ってまで進めることは利益を十分想定してから動き出します。
挑戦することは新しく自分ができる範囲を広げることであるため、最大限動いています。一方で、リスクが高く失敗しそうなときは一種逃げている場合もあります。
冨山さんが20、30代に経た人生経験を見ると私などまだまだ挑戦したりないなと、感じます。冨山さんが発言されている動画を拝見すると、一言一言に経験や思いが詰まっています。これはやはり数多くの挑戦と挫折、成功をされてきた方からこそなのだと理解します。
ストレス耐性を高め、挫折と折り合う技
挫折は人を成長させる大きな糧です。
挫折を力に変えるためには、まず挫折に負けないストレス耐性を付けることが重要です。
挫折の多い人生が不幸かというと、そうではありません。どこかでリスクに会い、壁にぶつかるのは一つのドラマであり、チャンスです。不幸とカタストロフィの繰り返しによって、より面白い人生が送れると思うなら、それは幸福な人生です。不幸がいかに多くても、折り合いをつけ、心安らかな人生さえ得られるようになります。
(所感) ストレス耐性は生まれ持った先天的なものではなく、成長しながら身につけていくものだと思います。以前は先天的な要素が強いように感じていました。 学生時代体育会系に所属していた人間が打たれ強いのは、こういうった理不尽な状況になれているため耐性が付いたものだと思います。これは歳を追うごとに耐性が付きにくくなるので、若いうちになるべく挫折を味わうことが大事になります。
この文章を読んで改めて日々挑戦をしていこうと心に決めました。
人間関係の泥沼を楽しみ、糧にする技
「挫折」や「失敗」に対峙した組織は、人間関係が悪化して崩壊していくか、危険ばねにより結束力が強まるかの分かれ目に必ず直面します。ピンチのときほど、その裏でドロドロした人間関係の泥沼が展開されます。そこで人間はその本性をむき出しにします。
悪い情報、耳の痛いことを本当に大事な局面で伝えてくれる友こそが、本当の友です。一緒に仕事をしていて信ずるべきはそういう仲間です。
結局、悪い話を伝えられない真の理由は、相手への思いやりでも気遣いでもありません。伝えたときの反発、混乱、それに対応することの面倒くささ、そして何よりもそのせいで自分の立場が直ちに危なくなることへの恐怖です。そうやってごまかしていても所詮は問題の先送りにすぎません。
(所感) 悪いことは早く吐き出す癖をつけないといつしか大きくなってしまう、これはよく身に染みて実感します。最初に言い出すエネルギーが小さいときに言ってしまう癖をつけないと後々大変なことになります。
終わりに
人間が大きく成長するために必要な条件は挫折であることを本を通して理解しました。
冨山さんほどの多くの波乱万丈なできごとは私には起こらないかもしれません。しかしながら、殻にこもって自分の器を広げないことの方が歳をとった時に小さい人間のままになってしまいます。
挑戦することに前向きになれる教えの多い本でした。
企業戦略論第三章「脅威の分析」要約:バーニー著
はじめに
バーニー著の企業戦略論のうち、第三章の脅威の分析についてまとめます。
要約
SCPモデル
1930年代、経済学者によって「企業の置かれた環境、企業行動、企業パフォーマンス」という3つの要素の関係を理解する方法論の研究が始められました。
この研究から生まれたフレームワークは「業界構造―企業行動―パフォーマンスモデル」をSCPモデルとして知られるようになりました。
1.業界構造はその業界に存在する競合企業の数、製品の差異化の度合い、参入と退出のコストによって測定されます。
2.企業高度は業界における特定の企業が取る行動のことです。これは市場価格に応じた価格調整による需要変動への適応、製品差別化、談合、そして市場占有力を背景とした諸行動などです。
3.そして最後のパフォーマンスは2つ意味があります。1つは個別企業レベルのパフォーマンスであり、他方は業界全体としてのパフォーマンスです。
業界競争構造の分類・記述
脅威を分析する5つの競争要因モデル
マイケルポーター教授によって開発された5つの競争要因フレームワークとは、企業が標準を上回る利益を維持したり創出したりする能力は、業界構造の5つの属性によって脅威にさらされることです。
この五つのうち今回は1.新規参入の脅威についてまとめます。
1.新規参入の脅威
2.競合の脅威
3.代替品の脅威
4.供給者の脅威
5.購入者(顧客)の脅威
1.新規参入の脅威
新規参入者とは、その業界でごく最近になって操業を開始したか、もしくは間もなく開始しようとしている企業のことです。例えば、ゼネラルモーターズにとっての新規参入者は、トヨタ自動車や日産自動車、韓国の現代自動車や起亜自動車なのです。IBMのコンピュータ事業に対しては、アムダールコンピュータやヒューレットパッカード、そしてデジタルイクイップメントです。
新規参入の脅威は参入コストによって決定されます。参入障壁とは、参入コストを高くするような業界構造の属性です。SCP及び戦略に関する文献では、5種類の参入障壁の存在が指摘されています。
(1)規模の経済
(2)製品差別化
(3)規模に無関係なコスト優位性
(4)意図的抑止
(5)政府による参入規制
(1)規模の経済
規模の経済(EOS : Economies of scale)が参入障壁として作用するためには、生産規模と企業の生産コストの関係が下記図のAの形をしていなければなりません。ただし、実証研究によれば多くの業界において、AではなくBのような低コスト生産が実現できる状態であるとのことです。 しかしながら、本著では金属缶製造、製鉄、アルミ精錬業などは最適レベルの生産規模が非常に狭い範囲でしか存在しないと記されています。例えば、製鉄業であれば高炉工程において経済的に合理的な出銑量が決まっています。想定量よりも出銑量を多くすると、生産量は多くなるものの品質が悪くなることで結果的に生産コストが悪化することがあります。
(2)製品差別化
製品差別化とは、ある業界の既存企業の製品が、あるレベルのブランド認知度や顧客ロイヤルティを保有しているため、潜在的新規参入者にはそのような認知度やロイヤルティがない状態をいいます。
この場合、新規参入者は新たな業界での生産開始に伴う標準的なコストを負担するだけでなく、既存企業が持っている差別化による優位性を克服するためのコストも負担しなければなりません。
(3)規模に無関係なコスト優位
ここまでにまとめた参入障壁に加え既存企業は新規参入者に対して、規模の経済とは無関係なコスト優位を保持している可能性があります。
・自社独自の占有技術
・ノウハウ:ごく当たり前として認識されないものの、競争するために必要な知識・情報
・原材料への有利なアクセス
・有利な地理的ロケーション
・学習曲線によるコスト優位
(4)意図的抑止
既存企業が取る行動の唯一の目的が新規参入者の抑止の場合もあります。
(5)政府規制
政府がそれ自身の政策的意図として、特定業界への新規参入を制限する決定を下す場合があります。経済先進国では、多くの場合既存企業の収益性をコントロールしようとする規制と抱き合わせで実施されます。例えば、アメリカの民間航空委員会がアメリカの航空市場のルートと運賃を決めていた時は、このような状態でした。
似たような参入障壁は日本のビール業界にも存在します。この業界は4社(キリン、アサヒ、サッポロ、サントリー)によってほぼ市場が独占されています。外国企業がこの業界に参入してビール製造を開始するには、財務省からライセンスを取得しなければなりません。 一方、このライセンスは企業が200万リットルのビールをせいぞうしていなければなりません。従って、海外のビール会社は日本市場において高価な輸入ビールセグメントに封じ込められることとなりました。
終わりに
脅威の分析についてまとめました。その中でも新規参入について取り扱いました。