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気づき:デジタルテクノロジーと国際政治の力学(著者:塩野誠)その1

はじめに

 経営共創基盤のマネージングディレクターである塩野誠さんの新著「デジタルテクノロジーと国際政治の力学」を読んで興味深かった点、気づきをまとめます。

イノベーションの創出と国の関わり

 1958年アメリカは旧ソ連との冷戦時代、アイゼンハワー政権下に高等研究計画局(APRA)が設立されました。後に、ARPAの頭にD(Defense)が付き、DARPAと呼称されるようになりました。

 冷戦から生まれた軍事科学技術研究機関であるDARPAはインターネットの前身であるARPANETのコンセプトの多くを開発し、インターネットの生みの親といわれています。    また、GPS、ステルス技術、音声認識技術、翻訳技術等が研究されており現在のデジタル技術の基礎を作った機関でもあります。

DARPAによるイノベーション創出

 DARPAではプログラムが約250程度あり、プログラムを監督する責任と大きな権限を持つプログラムマネジャー(PM)が100人近く在籍しています。

 PMの大半は一流の科学者であり、3~5年の限定雇用となっています。政府の予算としては約3400億円計上されています。つまり、一プロジェクトあたり単純に年間約14億円の予算となっていることになります。

 DARPAはその高い自由度の中で、異なる領域の研究者の知見を探索し、統合していくことが許され、かつそれを求められています。現在のソフトウェアのスタートアップ企業に近い形態となっています。  

(経済産業省資料より抜粋) f:id:fumio-eisan:20201016163831p:plain

 また、DARPAの組織構造は階層が少ないため意思決定が素早く行うことができるようになっています。

 日本で置き換えると、防衛装備庁と呼ばれる機関があるようです。また、理化学研究所産総研等の機関についても併せてまとめました。


(各所Webサイトより抜粋)
・防衛装備庁:1597億円(2020年度予算)
理化学研究所:976億円(2020年度予算)
産業技術総合研究所経済産業省所管):1019億円(2019年度決算額)
国立情報学研究所:128億円(2020年度)
情報通信研究機構:491億円(2019年予算計画)

 GDPアメリカが20.5兆ドル、日本が5.0兆ドルであることを加味してGDPで按分すると日本の方がGDP辺りの研究開発はお金をかけている計算になります。しかしながら研究職は日本の防衛装備庁は500名程度とされているため、一人当たりの予算はアメリカよりも少ない計算となります。

デジタルテクノロジーによる国家への脅威

アラブの春

 2010年、失業中のチュニジア人の青年が、腐敗した警察に対して自らの身体を犠牲にして抗議しました。

 この事件を発端として、チュニジアは2011年には23年続いたベンアリ大統領の政権が倒れました。これに続き、エジプトでの大統領退陣、リビア政権交代といった民衆による反政府運動は「アラブの春」として注目されました。

 体制に不満を持つ民衆にとって何よりも大きなパワーとなったのが、FacebookYoutubeTwitterなどのソーシャルメディアです。

 インターネットによって個人が世界に向かって声を上げ、多くの仲間と繋がり、正しく開かれた情報にアクセスできるようになりました。

中国の社会信用システム

 2017年時点で中国には1億7600万台の監視カメラが設置されているとのことです。監視カメラの一部は、「天網」と呼ばれるネットワークとリンクしており、AIによる顔認証と人物の捕捉が行われています。

 また、構築中のシステムとして社会信用システムがあります。これは、国民と企業の経済、社会、道徳、政治的行動を監視、評価、規制する目的で構築されています。

 国民の行動に報酬と処罰によるインセンティブ設計がなされており、高スコアの人間には学校への優先入学、公共交通機関や病院での優先、ローンへの優先的なアクセスが可能になっています。

 スコアが加算されるためには、ソーシャルメディアでの政府を称えることや貧しい人を助けること等が必要だそうです。

 社会的に反する行為を抑制するために一定の効果があるように思いますが、政府に対して賛同することでスコアを上げる等民主主義と異なる考えで日本にとっては非常に受け入れにくい考えです。

 

まとめ

 デジタルテクノロジーアラブの春の例のように時に国を動かす力となりますが、一方で中国のような管理社会を作ることも可能です。

 私もデジタル技術によって業務改善等を行えないか企画をする立場でもあるので、より多方面から見たリスク・メリットを総合的に勘案することで進める必要があると感じました。