気づき_コーポレート・トランスフォーメーション を読んで(その1)
はじめに
冨山和彦氏の著書「コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える」を読んだ感想と気づきについてまとめます。
日本的経営の要素
著者が挙げている日本的経営の要素は下記です。
①人事組織管理:同質性、閉鎖性、固定制
・終身雇用
・年功制
・企業別組合(⇒労使協調)
・新卒一括
・転職は基本的に悪
②組織構造と運営
・階層構造(年功ベースの世代別階層)
・意思決定も実行も全員参加型指向
③事業戦略経営:連続的改良・改善型競争、自前主義競争
・生産、開発、営業全てにおいて、同質的な集団による持続的な改良・改善を延々と積み重ねる
・コスト訴求型、大量生産大量販売型
・意思決定力<実行力・現場力
④財務経営
・財務は全社資金調達と使途の帳尻を合わせることが基本業務
・P/L数字を基本にした経理的な管理で関与
⑤コーポレートガバナンス
・取締役会は社内取締役中心
・株主のガバナンス機能は最小化(⇒持合い、株主総会対策)
・社長を含む幹部経営陣の選抜は、生え抜き内部昇格が原則(⇒高学歴かつ転職せず一つのカイシャに勤めたおっさんから選ぶ)
となっているため、特徴として外壁は極めて厚く排他的である一方、内部構造はあいまいな柔軟な構造とのことです。
この仕組みは1960年代以降の社会経済的な事情(三井三池争議)や文化的な背景とが絡み合いながら、形成されていきました。しかも1960~1990年の人世代に渡ってです。すると、この仕組みが強固となりそれを守ることが自己目的化していきます。元々、手段原理の集合体だったものが目的化するという、ありがちな展開になります。
この指摘はその通りで、私の会社も所謂日本的経営の文化が強く形成されており、変わろうとしていません。さらに、自己目的化していることは実感します。
元々は、従業員が雇用解雇を心配することなく事業に集中できるようにできた終身雇用や年功序列の機能です。それは、人間を大事にしており、倫理的に優れている機能だと日本人の中に形成されたことや1979年の東京高裁判決などで判例的に確立したことで、さらに強固な制度になりました。
従い、終身雇用を守ることが目的となってしまっているのです。確かに、人事部門において解雇をしないことが誇りとしている話を聞いたことがあるため、同感です。
日本的経営の強さ
環境変化が要求する組織能力の変異幅が、ある一定範囲に収まっていれば日本的経営は非常に強みを発揮します。気心知れた仲間同士で「あ、うん」の呼吸で迅速に改良アプローチに対応できます。
メイドインジャパン枠の中では変異対応力は高いものの、ファブレス化の波が起きたときにデザインドインジャパンへ転換する変容力は乏しいのです。
日本的経営の硬直性
この日本的経営は、要素が広範化して相互連関性が強くなると大きな改造が難しくなります。
例えば新しい事業ドメインで新しい戦い方、組織能力で戦おうとすると大変な時間と労力を要することになります。新しい成長領域はスピードが重要な競争要因になるため、戦いになりません。
M&Aを行っても、異質なモデルの会社を経営する組織能力を持たないため、結局カネをどぶに捨てる結果になります。
日本のエレクトロニクスメーカーがやってきたゲームは、生真面目に自前でコツコツと技術開発をし、モノづくりにしてもシステムづくりにしても、万が一不良が出ないように集団共同作業で徹底的に作りこんでいく。 「とりあえず市場投入しちゃえ」などという乱暴なことは絶対にしない。実行可能性が担保されてから決定し行動に移すスタイルである。
グローバル化及びデジタル技術による求められる変革
次から次へと興隆しているネットビジネスで何よりも大事なことは、丁寧にものづくりを仕上げる、作りこむことよりもとにかく高速でPDCAを回すことです。
所謂アジャイル型開発でどんどん顧客にぶつけて、そこから生じるクレームも含めてデータドリブンで次の手を打ちます。技術に関しても自前主義には無頓着で、欲しい技術は人間ごとあるいは会社ごと手に入れます。それでダメならさっさと捨てるスタイルです。
先ほどの日本的経営と真逆のスタイルとなっています。
このデジタル革命の大波の直撃を受けた産業は、ほんの数年で世界は全く変わってしまいます。特に、半導体DRAM産業はこの波を大きく受けました。
また、冨山氏が2003年の産業再生機構のCOO時代の話です。10兆円という大きな資本力を持ってある産業領域の電機メーカーに対して事業を日本国内で完全統合し、世界一生産量の大きいファウンドリー(=工場)にするよう提案したといいます。
その場合でも、メーカーは了承しなかったといいます。CEOが正しいと考える戦略的決断も、よほどのことがない限り社内のコンセンサスが取れていなければ意思決定できないのです。
終わり
日本的経営とは何か、その歴史や特徴をみてきました。企業の変革を求められている一方で、この文化は非常に障壁となることがよく分かりました。