マッキンゼー編「企業価値評価」の内容(第2章:企業価値不変の法則)
はじめに
今回はコンサルティング会社であるマッキンゼー社がまとめた「企業価値評価」について、読んだ内容をまとめます。今回は第2章についてです。
企業価値不変の法則
「キャッシュフローが変わらなければ、企業価値が変わらないこと」を企業価値不変の法則と呼称します。つまり、企業が生み出すキャッシュフローの総量に変化がなく、キャッシュフローに対して株主や債権者が持つ権利だけが変わった場合には、企業価値は不変となることです。
例えば、デットエクィティスワップや自社株買いのための社債発行がその例です。企業価値が一見変わるようにみえるものの、この法則に当てはめると変わらない例を下記に示します。
デットエクィティスワップとは
デットエクィティスワップ(Debt Equity Swap)とは、過剰債務について債務を債権者が現物出資により株式化することをいいます。
債務者(お金を借りている側)のメリットとしては、有利子負債が軽減されて資産が増える見た目となるため財務内容を改善できることです。一方、デメリットは債権者(お金を貸す側)から経営に干渉されることや配当負担が増加することなどがあげられます。
具体的には、債権者が返済期日の到来した借入金などの債務を現物出資する形で増資することによって、資本に振り替えます。債務者が負債の返済が困難な場合に行われることがほとんどです。
自社株買い
自社株買いは企業が発行している株式を、自らの資金を用いて市場から買い戻すことです。
上記画像は自社株買いを行った場合の株価や時価総額などの諸表変化の想定を示します。自社株買いを行うことにより、10百万株から9万株に減ります。すると時価総額も減ることになります。しかしながら、この時価総額を当初の値に戻そうとして株価が上がる側に動きます。
実際にこのような動きが本当に起こるのかは実施例を知らず不明です。企業側がキャッシュを持っている場合は株主としては研究開発や設備投資によって本業の利益率を上げる手段を取ってほしいと望むと考えます。
自社株買いはキャッシュの使用用途が限られているのでは、と株主から思われる要因になり得ます。
また、企業価値不変の法則に従えば、キャッシュフローは増加しないため株価が上がるような都合がいい状況は起こらないとのことです。
自社株買いのようにEPS(Earnings Per Share)が増加すると称する取引を提案された場合には、経営者はどこに価値創造の源泉があるのか注意深く検討しければならないのです。
企業買収
本著によれば、統合される2社のキャッシュフローの総和が買収前より増加する場合のみ、企業買収によって価値創造が起きます、そうしたキャッシュフローの増加は、コスト削減、売り上げ成長の加速、固定資産や運転資金のより効率的な活用によってもたらされるものです。
製造業においては、複数製造地点を統廃合することによって製造コストや固定資産の削減に繋がります。つまり、この場合はキャッシュフローが改善(=利益率向上)するため、企業価値向上に繋がります。
従って、キャッシュフローが変わらない合併の場合は将来期待されるキャッシュフローが変わらないため、本著では企業価値は変わらないとしています。 しかしながら欧米ではキャッシュフローが変わらないとしても企業価値が創造されるという考え方があります。この考え方に対して、マルチプル拡大、評価見直しという専門用語まであります。
本著ではマルチプル拡大を実証的に示すようなデータは存在せず、企業買収を正当化する理屈としては完全に間違っているといいます。企業買収を正当化する理由としてマルチプル拡大が用いられているとのことです。
ファイナンシャル・エンジニアリング(割愛)
まとめ
企業価値はフリーキャッシュフローとWACC、成長率で決まります。このうちフリーキャッシュフローが増大しない限りは企業価値は増大しないのが企業価値不変の法則でした。
これは、WACCや成長率はフリーキャッシュフローから強く影響を受ける従属変数であると理解しました。結局はフリーキャッシュフローを生み出す本業を変えていかなければ企業価値は変わらない、という素直な考えに基づいた法則なのでしょう。